「悪い、冗談だ。吉乃はなにも事情を知らないのだから、戸惑うのも無理はない」
「冗談……?」
「とにもかくにも、もう少しだけ大人しく俺に抱かれていろ。どうせなら邪魔の入らぬところで、ふたりきりで話がしたい。お前を食べるのも、ふたりきりのときの方が良さそうだしな」
「なっ!」
色香をまとった甘く掠れる声に鼓膜を揺らされ、吉乃はさらに身を硬くした。
顔を茹でダコのように赤く染めた吉乃の初心な反応を見た咲耶は、今度は面白そうに口角を上げて笑う。
(も、もしかして、私の反応を見て楽しんでる?)
疑問を抱いても声には出せない。
結局、吉乃は目的地につくまで咲耶の腕に抱かれたまま、借りてきた猫のように大人しくしていることしかできなかった。