「しかし、まさかこのような場所で出会えるとは思ってもみなかった。巡り会えたことを幸運に思いたいところだが――手放しでは喜べないのが残念だ」


戸惑う吉乃を前に、咲耶は寂し気な表情を浮かべる。

黒曜石のように黒く澄んだ瞳の中には吉乃だけが映されていて、吉乃はまるで、ふたりだけの世界に閉じ込められたような気分になったが、どこか陰のある咲耶に一抹の不安を覚えてしまった。


「咲耶さん。あなたは一体――」

「まだ聞きたいことは色々とあるが、この話の続きは、あとにしよう」

「え……」

「どうしても先に、片付けなければならない仕事(こと)がある。少しだけ待っていてくれ」


しかし、吉乃の言葉を遮った咲耶は、名残惜しそうに吉乃から視線を外した。

そしてゆっくりと立ち上がると、それまで息を殺してふたりを静観していた大蜘蛛へと目を向けた。


「さて、大蜘蛛。貴様とは、どこまで話をしたかな」


そう言った咲耶の目からは、たった今の今まで吉乃に向けられていた温かい眼差しは完全に消えていた。

ゾッと背筋が凍るような冷酷な視線と声に、大蜘蛛が恐怖で身を硬くしたのがわかった。