「女、お前、名はなんという」


(ち、近い……!)

恐ろしいほど綺麗な顔だ。

さらりと風に流れた銀色の髪は毛先に向かうにつれ吉乃の瞳と同じ薄紅色に染まっており、陽に透けると色濃くなった。

人ならざる者の中には人間離れした容姿をした者がいると聞いたことはあるが、想像を遥かに超える神々しさに、吉乃は声の出し方を忘れるほど狼狽えた。


「なぁ、名を聞かせてくれ」

「え……あっ! す、すみません。吉乃と申します!」

「吉乃?」

「は、はい。私の生まれ故郷の木花村(このはなむら)に、村を護ってくださる千年桜の伝説があって。その桜の木にあやかって吉乃という名をつけたと、亡き両親が教えてくれて──」


動揺のあまり、余計なことまで口走ってしまう始末だ。

吉乃は慌てて口を噤んだが、話を聞いた男はまた驚いたように目を見開いたあと、唐突に穏やかな笑みを浮かべた。