「ああ、美しいなぁ。まるで天女のようじゃねぇか」


天女──そんな言葉が聞こえて、思わず吉乃は微笑んだ。


「さぁ、吉乃、行くよ」

「はい、姉さん」


しゃなり、しゃなりと花街の中心を闊歩する。

そっと目を開けた吉乃は、真っすぐに伸びた道を見つめながら愛しい彼の姿を思い浮かべた。

(これが、私がこれから歩いていく道──)

いつか、彼と心の底から笑い合うために。

命を懸けて、歩み続けようと決めた道だ。


「あ……」


そのとき、不意に強く風が吹いて、辺りに桜吹雪が舞った。

と、ふわり、ふわりと舞う桜の花びらが一枚、吉乃の手のひらに落ちてきた。


「──堂々と、お前らしく歩いていけ」


その道の先には必ず、愛しい彼がいる。

どんなときでも優しく見守り、支えてくれる彼の凜とした声を聞いた気がして、吉乃の顔には満開の笑顔が咲いた。


「咲耶さん、見ていてね」


桜の舞う道を、背筋を伸ばして歩いていく。

ゆっくり、ゆっくりと。

いつか、ふたつの道が交わるその日まで。

精いっぱい前を向いて生きていこうと決めた吉乃は、苦界と呼ばれるここ、帝都吉原──地獄で、笑った。


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最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
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書籍版には、こちらのサイト版にはない咲耶目線の章などもありますので、ぜひ書籍版も楽しんでいただけましたら嬉しいです^^


2021.小春りん