「おい、いよいよ例の遊女が突き出しだってよ! 道中は見に行かないと損ってやつだぜ!」


まだ春も訪れる前。賑やかな花街は、一層の活気に満ち溢れていた。


「なんでも葦後屋の烏天狗の主人があの遊女にぞっこんだってんで、今回の突き出しの道中にかかる費用の半分と、寝具一式送ったらしいぞ」

「いやいや、それを言うなら、あの神威の将官だって! 遊女を大層大事にしているそうじゃねぇか!」


晴れやかな空。

今日は吉乃の十八歳の誕生日だ。

吉乃は今日から鈴音と共に七日間の花魁道中を行うことになっている。

今話題の異能持ちの遊女を見ようと、花街の仲之町通りにはたくさんの人ならざる者たちが集まっていた。


「おい来たぞ! あれが噂の吉乃だ!」

「なんだよ、ここからじゃあ、まだ顔がハッキリと見えねぇよ」


絢爛豪華(けんらんごうか)な深紅の着物に身を包んだ吉乃は、きらびやかな髪飾りと、唇には目が覚めるような赤い紅をひいていた。

薄紅色の瞳が、群衆を静かに見下ろす。

艶やかな吉乃の姿に、誰もが目を奪われて感嘆した。