「ときに大蜘蛛。案内所をこのような有様にするとは、一体どういう了見だ。ことと次第によっては、貴様を粛清(しゅくせい)せねばならんが、覚悟はできているのだろうな?」

「も、申し訳ありません、どうかしていたのです! こちらの女に――この、薄紅色の瞳を持つ人の女に、特別な異能の力が備わっているのを感じまして。つい、妖としての欲が暴走してしまったのです!」


大蜘蛛が必死に弁明を繰り返す。

けれどその言葉を聞いた瞬間、男の目が再び、床に座り込んでいる吉乃へと向けられた。


「薄紅色の瞳を持つ人の女だと――?」


男が、鷹のように鋭い目をそっと細める。

改めてその瞳に吉乃を映した男は、なにかに気付いた様子で形の良い目を見開いた。


「お前は……」


そして、導かれるようにゆっくりと、吉乃に向かって歩いてくる。

吉乃は腰を抜かしたまま、動くことができなかった。

そのまま男は吉乃の目の前で足を止めると、徐に(ひざまず)き、至近距離で吉乃の顔をまじまじと見つめた。