「でも……花魁を目指す私を、咲耶さんは変わらず愛してくれますか?」
吉乃は咲耶の手を掴んで、そっと両手で包み込んだ。
これまでずっと、吉乃は迷い続けてきた。帝都吉原に来てからも、自分に遊女が務まるのか不安でしかなかったが、今ようやく覚悟ができた気がしている。
けれど花魁を目指すということは、咲耶以外に自身の魂を差し出すということだ。
(そうなれば、少なからず、今のままの私ではいられなくなるかもしれない)
いつまで魂が持つかもわからない。まさに命懸けの選択でもある。
「そんな私を、咲耶さんはすべてを終えたとき、花嫁に迎えてくれますか?」
「……っ、くだらないことを言うな! 後にも先にも、俺が愛するのは吉乃だけだ! 俺の花嫁は、吉乃以外に有り得ない!」
涙を浮かべた目で自分を見上げる吉乃を、咲耶は強く抱き寄せた。
「咲耶さん……必ずふたりで、ここを出ましょう」
「ああ。吉乃とふたりで帝都吉原を出ることが叶うその日まで、俺は吉乃と吉乃がいるこの場所を命を懸けて護り抜くと誓う──」
そう言った咲耶は再び、吉乃の唇に口づけた。
比翼連理――。
本当に、生まれる前からこうなることが決まっていたかのように、咲耶の身体に吉乃の身体は添うように収まった。
「咲耶さん、私はあなたのことが好きです。これだけはずっとずっと、覚えていてください」
吉乃が微笑むと、目尻に滲んだ涙を咲耶がそっと指先で拭ってくれる。
「俺も吉乃を愛している。この想いだけは、なにがあっても揺るがない」
そのままふたりは、空が白みはじめるまで桜の木の下で寄り添っていた。
いつまでも抱き合うふたりを、薄紅色の花たちだけが見守っていた――。