「どうして私に、そのように大切な話をしてくれたのですか?」

「それはお前が、俺の花嫁だからだ」

「花嫁って……」

「吉乃には俺の純粋な神力が生まれながらに備わっている。お前のその薄紅色の瞳も、異能である惚れ涙も、俺の神力がすべての根源なんだ」


思いもよらない話に衝撃を受けた吉乃は、返す言葉を失くして固まった。

(私の瞳の色と異能は、咲耶さんの神力が根源?)

意味がわからない。

吉乃の気持ちを察した咲耶は、今度こそ覚悟を決めたように口を開いた。


「俺が元々いた土地は、吉乃が生まれた木花村を抱く山々だ」


『木花村にはね、私たちが住むこの土地を護ってくれている、千年桜の伝説があるのよ』

それはずっと昔に、吉乃が両親から聞かされた話。

しかし、吉乃の両親は〝呪われた一族〟と呼ばれ、吉乃が幼い頃に亡くなった。


「吉乃の数百年前の先祖は、俺を大切に祀り、信仰していた一族だった」


吉乃の先祖は咲耶が宿る桜の木が帝都吉原に移植されるときにも、役人たちに『止めてくれ』と、必死に食い下がって抵抗したということだ。

しかし、結果としてその行為によって政府に睨まれ、木花村は数年間、税などの面で冷遇される羽目になった。

吉乃の先祖が〝呪われた一族〟と、呼ばれ出したのもそれがきっかけだ。

古い迷信で桜の木を祀り、政府に歯向かって村を危機に陥れたとなれば、村の人間が疎ましく思うのも当然だった。


「だが俺は、俺を守ろうと必死に政府の者に抵抗した吉乃の先祖たちに、心から感謝していた」


咲耶が完全に神堕ちしなかったのも、先祖たちのおかげだという。

先祖たちが自分の身を危険に晒してまで咲耶を守ろうとしたことが、咲耶はとても嬉しかったのだ。


「だから俺はそのときに、彼らがこの地を護れるようにと力を与え、祝福……つまり、自分の神力の一部を授けたんだ」


その神力が引き継がれる限り、彼らが生きる土地が干上がることのないようにと願いを込めて。


「そうして、巡り巡って俺の神力を強く持って生まれたのが吉乃というわけだ。吉乃がいる限り、あの土地は安泰のはずだったが……お前がここにいるということは、あの場所が枯れるのも時間の問題だろうな」


予想もしていなかった言葉に、吉乃は木花村の面々を思い浮かべた。

吉乃はあの村で長い間、冷遇を受けてきた。

当然、未練などない。

土地が枯れれば、養父母もどうなることかわからない。