「やり方は、ちゃんと教わってきたんだろう?」

「は、はい。でも、禅さんは慣れているから、禅さんに任せればいいとクモ婆には言われました」


吉乃の返事に禅が小さく舌を打つ。


「あの婆さん、お前にすっかり甘くなったなぁ。惚れ涙の力がそれほどすごいってことなんだろうが、本当になかなか厄介な力だな」


そう言った禅は、吉乃の薄紅色の瞳を覗き込む。


「だが……惚れ涙を飲まなくても、この目に見つめられるだけで、普通の奴ならコロッといきそうなもんだ」

「禅、さん?」

「お前が笑うだけで、なんか特別感もあるしな。ほんの少し、あの婆さんがお前に入れ込む気持ちもわかるような気がするぜ。ついでに――あいつの気持ちもな」


禅の言う〝あいつ〟が誰を指しているのか、緊張している吉乃にはわからなかった。


「まぁ、もう小難しいことはなしにして、そろそろ本題に移るとするか」


そう言うと禅は、吉乃の腰に手をまわした。

ドキン、と吉乃の胸の鼓動が大きく跳ねる。

(これから私は、禅さんに魂を食べられる──口付け、するんだ)

水揚げの際には壁の耳も障子の目も祓われる決まりのため、今は部屋の中には吉乃と禅のふたりきり。

吉乃も、禅が悪い男ではないということは、もうちゃんとわかっている。
 
それでも勉強のためにと、姉女郎たちが人ならざる者に魂を食べさせる様子を見てきた吉乃は、これからされることを想像して身を硬くした。


「なんか、お前の緊張がこっちにまで伝染(うつ)りそうだわ」

「え──」

「なぁ、お前は俺にどうやって喰われたい? 初めてなんだし、お前がされたいようにしてやるよ」


そう言う禅は、驚くほど色っぽかった。

(でも、私がされたいようにしてくれるって言われても……)

口付けは、短いものから長いもの。

そして浅いものから深いものに加えて濃厚なものまで色々あると、吉乃は鈴音を含む姉女郎たちから教わってきた。