『私ね、夢があるの』


そうして続けられたのは、白雪が口にした〝白雪の本当の夢〟につながる話だった。


『私は将来、帝都吉原で見世を持ちたいの。白雪には以前からその話を打ち明けていて……。もし、私の夢が叶ったら、そのときはそばで支えてほしいと言っていたのよ』

『鈴音さんが、帝都吉原の妓楼の楼主に……ですか?』

『ええ。私が遊女になったのも、その夢を叶えるため。現世にいたときの私は、ただ両親の言うことを聞くだけのつまらない女でね。だけど一度きりの人生、自分の思うままに生きないと後悔すると思ったから家を飛び出した』


けれど、そこまで言った鈴音は、『でも結果としてそれが、あの子を暴走させる原因にもなったのだけれど』と呟き、寂しそうに笑った。


『私は絶対に自分の夢を叶えてみせる。そのためには莫大なお金と権力が必要なの。私が誰の花嫁にもなるつもりがないのは、それが理由よ。今はお客様たちとの絆を深めて、自分にしっかりと力を蓄えたいの』


そう言った鈴音は、希望に満ちた目で空を見上げた。

帝都吉原の歴史は長いが、これまで人の女が楼主を務めた例は一度もなかった。

(鈴音さんは初めての、人の女楼主になろうとしているんだ)

もし本当に実現すれば、帝都吉原に新たな歴史を刻むことになるだろう。

人の女が楼主を務める遊郭。きっと、大きな話題にもなるはずだ。


『だから私は、咲耶様をどうこうというより、咲耶様の権力に興味があっただけ。そういう意味では、最初にあなたが咲耶様と噂になって、紅天楼にやってきたときは焦りもしたけど……。だって神威の将官を味方にできれば心強いじゃない? 夢を叶えるためには少しでも長く遊女として生きて、たくさんの支援者を得ておきたいしね』


清々しいほどに言い切った鈴音を、吉乃はまぶしく感じていた。


『花魁になったときに、〝ひとつだけ願いが叶えられる〟という話を帝にされたけど、その願いを残してあるのも、将来自分の見世を作るためなのよ』

『え……』

『吉乃もさすがに、噂くらいは聞いたことがあるでしょう? 花魁になったら願いをひとつだけ叶えられる。あれはね、本当よ。帝都政府を率いる帝が、本当に願いを叶えてくれるの』


それは以前、吉乃も聞かされた話だった。

(だけどあのときは、迷信のようなものだと思って……)

今の鈴音の話では、本当のことらしい。

咲耶も『本当の話だ』と言っていたことを考えれば、もう絶対的な真実だ。


『でも、叶えられる願いにはいくつか条件があって──』

『他者の心を手に入れられるような願いは叶えられない、ですか?』

『あら、知っていたの。そう、たとえ特別な力を持つ人ならざる者の王でも、人の気持ちを変えることは無理って話らしいわね』


だからこそ吉乃の惚れ涙の力は狙われるのだと、以前、咲耶が言っていた。

──やっぱり、他者の心を強制的に手に入れる力は恐ろしく、安易に使って良いものではないということだろう。