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『……吉乃。これまで、あなたには色々と辛く当たってきて悪かったわ』


鈴音はそう言うと、改めて白雪の件も含めて吉乃に謝罪の言葉を述べた。

それと同時に、どうしてこれまで吉乃に厳しい態度をとってきたのか、本当の理由も教えてくれた。


『私は、白雪が私を特に慕っていることをわかっていた。だから私が吉乃に必要以上に優しくすれば、白雪があなたに対抗心を燃やしてしまうのではないかと思ったのよ』


鈴音いわく、白雪は以前から、鈴音の邪魔になるような者に対して険悪な態度をとることがあったという。

鈴音はその度に白雪を注意してきたが、鈴音を守りたい、鈴音の力になりたいと願う白雪の想いは相当に強く、あの事件を招いてしまったというわけだ。

鈴音が吉乃を妹分として引き受けることを嫌がった理由も同じだ。

吉乃に優しくして懐かれたら白雪を刺激することになるかもしれないと、鈴音は敢えて吉乃を自分から遠ざけた。


『結局、白雪を止められなかったのは、私の力不足のせい。可愛い妹の想いひとつ操縦できないなんて、私は花魁失格だわ』


そう言った鈴音は、呆れたように小さく笑った。

吉乃は話を聞きながら、鈴音に惹かれた白雪の気持ちがわかるような気がした。


『白雪ともこれからよく話して、しっかりと言い聞かせるわ。そして、私もあの子のこと、これまで以上に厳しく見ていくつもり。もう二度と、間違った道は選ばせない。それだけは今、しっかりとあなたに誓うわ』


胸を張って前を向く鈴音はやはり、美しかった。

凛としていて力強く、文字通り高嶺の花だ。


『あの……私からも鈴音さんに、聞いてもいいですか?』

『どうしたの?』

『その……鈴音さんは、咲耶さんのことを慕っていらっしゃるのですか? 咲耶さんの花嫁の座を狙っているというお話を聞きまして、その……私……』


思い切って尋ねた吉乃に対して、鈴音はキョトンと目を丸くした。

そして数秒間を空けてから、珍しく声を上げて笑い出した。


『アハハッ、突然神妙な顔でなにを言うかと思ったら』


吉乃は恥ずかしさで頬を赤く染め、顔を上げることができなかった。

そんな吉乃を見た鈴音は、フフッと小さく笑みを溢す。


『私がもし、咲耶様を慕っていると答えたらどうするの?』

『そ、それは……』

『嘘よ、大丈夫。私は咲耶様のことはなんとも思っていないから安心して。というか、寧ろ、この私を袖にし続けるいけ好かない男……と、忌々しく思っているくらいよ』


予想外の返事に、今度は吉乃が驚いて目を丸くした。
 
対する鈴音は人差し指を唇の前に立て、『内緒よ』と色っぽい笑みを浮かべる。