「今回、被害を受けたのは私です。でも、私はクモ婆にも雪ちゃんにも厳罰がくだされることは望みません。どうか今回のことは不問に付していただけませんでしょうか。お願いします。――お願いします」


もちろん、こんな身勝手な願いが聞き入れられるとは思えない。

また偽善的だと罵られてしまうだろう。

それでも吉乃は必死に頭を下げ続けた。

咲耶が納得してくれるまで。何度だって頭を下げようと思えたのだ。


「吉乃ちゃん、どうして……? 私は、吉乃ちゃんのことを騙していたのに……」


自分のために頭を下げる吉乃を見て、白雪が表情に戸惑いを浮かべる。

ゆっくりと顔を上げた吉乃は、もう一度白雪へと目を向けた。


「もちろん、聞いたときは落ち込んだし、今も悲しい気持ちはあるよ。でも、本当に勝手だけど、私は雪ちゃんに友達だって言ってもらえたとき、すごく……すごく、嬉しかったから。本当に嬉しくて、十数年ぶりに〝幸せ〟を感じることができたの」


大袈裟かもしれない。でも生きていたら、こんな気持ちになれることがあるのかと胸が震えた。

吉乃にとって白雪は、間違いなく大切な友達だ。

たとえそれが一方通行の想いであっても、吉乃にとって白雪はもうかけがえのない存在になっていた。


「大切な友達が辛い思いをするのは、私には耐えられません」


そう言った吉乃の目からは再び大粒の涙の雫が溢れ落ちた。

薄紅色に輝くその涙はとても美しく、その場にいたすべての者の心を惹きつけ、魅了した。


「見るだけでも、こんなに心を揺り動かされるものなのか……」


思わずといった調子で呟いたのは禅だ。

そんな禅から吉乃を隠すように、咲耶が吉乃を強く抱き寄せた。


「咲耶、さん……?」

「やはり、吉乃が流す涙は吉乃の魂と同様に、清らかで美しい」

「え……」

「だが、お前の泣き顔を他者に見られるのは気に食わない。俺の前以外では簡単に泣いてくれるな。絶対だ」


そう言った咲耶は慈しむように吉乃の髪を優しく撫でた。

温かい手の温度を感じたら、余計に目からは優しい涙が溢れ出す。