「私は、吉乃のためならどんなことでもすると誓うよ。私はなにがあっても一生、あんたについていくからね」

「え、えーと……」

「……まさか、このようなことになるとは、さすがの俺も予想外だ」

「咲耶、さん?」

「これでは、女郎蜘蛛を斬るのは気が引ける。……というか、なんだか萎えた」


次の瞬間、咲耶がまた呆れたように息を吐いた。

そのまま咲耶は、刀を鞘に納める。すると、それまで禍々しい空気を放っていた咲耶の身体から黒さが消えて、瞳の色も紅から元の黒色に戻っていった。

髪も恐ろしい闇色から、銀と薄紅色の美しい髪へと変わる。

咲耶が元の姿に戻ったのを見た吉乃は、ホッと胸を撫で下ろした。


「吉乃、お願いだよ! これからはあんたの言う通りにするから、あんたのそばであんたの世話をさせてくれ!」

「で、でもそれは……」

「ふぅ。ようやくすべて片付いて来てみれば……なにやらおかしなことになっていますね」

「琥珀さん!?」


と、不意に話に割って入ってきたのは琥珀だ。

弾かれたように吉乃が振り向けば、いつの間にか子蜘蛛たちは退治され、地面に裏返ってのびていた。


「子蜘蛛共は数ばっか多いだけで、なんの手応えもなかったぜ」


余裕たっぷりに言ったのは禅だ。

琥珀も禅も傷ひとつない様子に、吉乃はホッと息を吐いた。


「で、コイツらはどうするんだ?」


そう言った禅はクモ婆だけでなく、鈴音に支えられている白雪のことも顎で指した。


「今回のことは、神威の将官としては見過ごせぬ事案だ。この婆もそうだが……白雪と言ったか。命までとることはないが、お前にも重罰がくだされるだろう」


重罰――。つまり白雪はこのままでは、切見世長屋行きというわけだ。

そして、そこで使い捨ての遊女として低級妖に魂を喰われ続け、一生を終えることになる。

吉乃は慌てて咲耶を見上げると、再び声を上げようと口を開いた。


「お待ちください!」


と、吉乃が叫ぶ前に叫んだのは鈴音だ。

鈴音は白雪から離れて前に出ると、咲耶を真っすぐに見つめた。


「白雪は私が面倒を見てきた子です。この子の罪は、姉である私の罪。裁くなら、どうか私をお裁きください!」


力強い鈴音の言葉を聞いた白雪は、涙を溢しながら鈴音のそばまで駆け寄った。


「鈴音姉さん……! だめです、私が悪いんです! すべての罰は、私自身で受けますから、どうか私を見捨ててください!」

「いいえ、私はわかっているわ。白雪、あんたはまだ本当のことをすべて話していないでしょう?」


鈴音の問いに、白雪は狼狽えた様子で視線を彷徨わせた。

そんな白雪を見て鈴音が呆れたように小さく笑う。

そして震える白雪の身体を、再び優しく抱き寄せた。