「雪ちゃん、本当に大丈夫でしょうか」
ぽつりと溢した吉乃の声は震えている。
「ああ、きっと大丈夫さ。――これでようやく、邪魔者がいなくなったからね」
「え……?」
けれど次の瞬間、思いもよらない返事を聞いた吉乃は驚いて振り返った。
(聞き間違え──?)
と、思ったのは束の間、視線の先にいたクモ婆が、みるみるうちに恐ろしい女郎蜘蛛の姿に変貌した。
「きゃ……っ!?」
いつの間にか部屋の中に張り巡らされた蜘蛛の糸が、吉乃の身体の自由を奪う。
「クモ婆?」
なにが起きたのか事態が飲み込めない吉乃は、姿を変えたクモ婆を前に声を震わせた。
「これ以上、余計なことを喋れないように、まずは口を塞がせてもらうよ」
「んん……っ!」
クモ婆の糸が吉乃の身体の自由だけでなく、口元に巻き付いて声を出す術まで奪う。
「壁に耳あり対策はこれで万全。ついでに障子の目も私の糸で隠してやったから、目撃者は誰もいないよ」
(クモ婆……!?)
「おっと、そうだ。忘れる前に、〝アレ〟も取り上げておかないとねぇ」
(アレって……、っ!?)
蜘蛛の糸がスルリと、吉乃が着ている着物の襟から侵入する。
そして、蜘蛛の糸は吉乃が首から下げていたとんぼ玉の入った巾着袋を取り上げた。
「これがあると、色々と面倒だからね」
(それは――っ)
吉乃の抵抗も虚しく、クモ婆はとんぼ玉を巾着袋ごと、部屋の隅に放り投げてしまった。
壁にぶつかった勢いで、巾着袋から薄紅色のとんぼ玉が転がり出る。
とんぼ玉は無情にも吉乃から離され、畳の上で鈍い光を放った。
(クモ婆、どうして……?)
クモ婆は、思わずゾッとするほど邪悪な笑みを浮かべている。
これまで吉乃が見てきたクモ婆とはまるで別人だ。
「さぁ、行こうか」
クモ婆が女郎蜘蛛の姿のままでなにかの呪文を唱えはじめる。
(な、なに、これ……っ)
するとクモ婆の身体から無数の蜘蛛の糸が出てきて、吉乃の身体にまとわりついた。
まるで蚕の繭だ。
あっという間に吉乃の視界は闇に染まり、真っ暗な世界で吉乃は自分の身体が宙に浮くのを感じた。



