「う~ん? 解放してやってもいいがなぁ。その代わりオマエはワシと共に来て、この先、死ぬまでワシの言うことを聞き続けると約束できるか?」
非情な問いに、吉乃は一瞬、及び腰になった。
けれど、すぐに唇を噛みしめて顔を上げると、今度は真っすぐに大蜘蛛の四つ目を見つめ返した。
「あ、あなたが、ここにいる私以外の女の人たちを傷付けないと約束してくれるのなら、要求をのみます」
本音はもちろん、大蜘蛛になどついていきたくはない。
それでも吉乃は自分のせいで、誰かが傷付くのは嫌だった。
そもそも吉乃は遊女として売られた身だ。
吉乃がどうなろうが、悲しむ者など誰もいない。
(私の身ひとつで、この場の混乱が収まるのなら……)
恐怖に怯える心を奮い立たせた吉乃の身体は華奢で頼りないが、声には強い信念と覚悟が込められていた。