「禅様と咲耶さんは……とても仲の良いお友達なんですね」

「ハァ!? 俺とコイツが仲良しの友達だ!? どうしたらそう見えるんだよ!?」

「す、すみません。なんというか、おふたりのやり取りがすごく、気の置けない間柄というか、親しい関係のやり取りに見えたので」


素っ頓狂な声を上げた禅に対して、吉乃は咄嗟にそう言うと俯いた。


「その……私、現世で友達と呼べる子ができたことがなかったので。おふたりのようにお互いに言いたいことを言い合えるのは、すごく素敵だなぁと思ってしまって」


実際、咲耶は迷惑そうにしている部分もあるので、一概には『素敵』と言い切れないかもしれないが。


「俺とコイツが友達……トモダチ。うわ、考えたこともなかったわ。笑えね~」


けれど禅は満更でもない様子でそう言うと、プっと噴き出したあと破顔した。


「ハハッ。実に人らしい考えだな。だが、嫌いじゃない。おい吉乃、気に入った。お前、俺に〝様〟付けなんてしなくていいぞ。普通に、お前が話しやすいように俺を呼べ」


前髪を掻き上げ、禅が子供のように無邪気に笑った。

吉乃は一瞬ぽかんとしてから我に返ると、今度は恐る恐る口を開いた。


「では、お言葉に甘えて、禅さんとお呼びしてもよろしいですか?」

「ああ、いいぜ。で、お前は今も友達がいねぇのか? もし誰もいないってんなら、俺がお前のオトモダチになってやってもいいぜ」


そう言う禅は、決して吉乃を馬鹿にしているふうではなかった。

どちらかと言うと、吉乃との会話を楽しんでいるようにも見える。

初めは食えない男だと思ったが、禅は悪い奴ではないのかもしれないと吉乃は考えた。

(友達……)

そして心の中で禅の言葉を反すうしながら、白雪のことを思い浮かべる。


「友達……は、今はいます。同じ紅天楼の遊女見習いの子で、私には勿体ないくらい素敵な子です」


白雪のことを考えたら、自然と心が温かくなった。

けれど同時に胸も痛む。

本来であれば、白雪の水揚げの相手は目の前にいる禅だったのだ。

禅が白雪のことを知っているかどうかはわからないが、帝都吉原での生活が長い白雪はきっと、禅のことも知っていただろう。