「まぁでもこれでとりあえず、あんたの突き出しが無事に済みそうでよかった」


話の締めに入ったクモ婆は、そう言うとまた湯呑みに入っているお茶をすする。


「……いや、まだ安心とは言えないかもしれませんよ」


と、不意に口を開いたのは琥珀だ。

不思議に思った吉乃が琥珀を見れば、琥珀はなにかを考え込む仕草を見せながら言葉を続けた。


「吉乃さんを攫った、がしゃ髑髏は咲耶様に粛清されました。しかし、切見世長屋の遊女は結局、事情聴取が行われる前に何者かによって消されてしまいましたよね」


それは事件の数日後に、咲耶が琥珀の元に派遣した神威の隊士から聞かされた話だった。

神威の隊士たちが吉乃を攫った遊女を捕らえるために長屋を訪れたときには既に、遊女は殺されていたということだ。


「どうしてあのふたりが手を組んで、吉乃さんを攫ったのか……。どのようにして吉乃さんを捕らえたのか、事件の真相は藪の中です」


おかげで吉乃はあれ以来、紅天楼からは一度も出られていない。


「だからこそ、やはりまだ気は抜くべきではないかと……」

「まぁまぁ。なにはともあれ吉乃が無事で、こうして水揚げの相手と日取りまで決まったんだ。今はもう、それでいいじゃないか」


しかし、琥珀の話を聞いたクモ婆はほんの少し語気を強めると、空になった湯呑みを両手で握りしめた。


「ほんと、琥珀は心配性が過ぎるよ」

「確かに浮雲さんの仰る通りではありますが……。吉乃さん、こんなことを言って申し訳ありませんが、くれぐれも身の回りのことには今まで以上に注意してくださいね」


念には念を入れた琥珀の言葉に、吉乃は小さく頷いた。

(とにかく今はクモ婆に言われた通り、自分のできることをしっかりやろう)

今日も首から下げて着物の内側に隠しているとんぼ玉に、吉乃はそっと手を添えた。