(な、なにこれ──)

ギョロリとした四つ目に睨まれた吉乃の全身からは恐怖の汗が噴き出した。

吉乃は生まれて初めて人ならざる者の変貌を目の当たりにし、膝がガクガクと震えて、瞬きすらできなくなった。


「ワシは百年以上、ここで人の女たちの身体検査をしてきたが、オマエのような異能を持つ女に会うのは初めてだ!」


身の毛がよだつ、(おぞ)ましい声だ。

吉乃以外の女たちは腰を抜かして動けなくなったり、騒然としながら案内所の中を逃げ惑いはじめた。


「オマエの異能の秘密は今言った通り、その瞳にある。オマエが流す涙には惚れ薬の効果があり、口にしたものは生涯オマエしか愛せなくなる――そう、言うなれば〝惚れ涙〟だ!」

「ほ、惚れ涙……?」

「ああ、そうだ。惚れ涙を使えば、この世のありとあらゆるものを手に入れられる。どんな賢者であろうと、愛を知ったら愚者となるのだから。とても恐ろしい力だ!」


意気揚々と語る大蜘蛛はニヤリと(わら)い、四つ目を妖しく光らせた。

(まさか、私にそんな力があるなんて……)


「なにかの間違いです! もう一度、検査をし直してください!」


反射的に叫んだ吉乃は、後ろで縛られたままの手に力を込めた。

しかし、大蜘蛛は八本の脚をウゾウゾと不気味に動かし、せせら笑うだけだ。