「それと、お前は白雪と言ったか。お前のところにも後ほど、吉乃が攫われたときの状況を聞き取りに神威の者が来ることになっているから応じるように」


咲耶から指示を受けた白雪は、不安なのか泣きそうな顔をしてクモ婆を見やった。


「雪ちゃん、ごめんね……」

「え?」

「私が連れ去られたりしたから、雪ちゃんまで大変なことに巻き込んでしまって。せっかくの外出も台無しにして、本当にごめんなさい」


そして吉乃はそう言うと、白雪だけでなく紅天楼の面々にもう一度頭を下げた。


「私、もう二度とこんなことがないように気をつけます」

「よ、吉乃ちゃんが悪いんじゃない!」

「え……」

「私が吉乃ちゃんから離れたのが悪いの! 琥珀さんにも気をつけるように言われていたのに……。だから吉乃ちゃんはもう謝らないで! 本当にごめんなさい!」


次の瞬間、吉乃は駆け寄ってきた白雪に力強く抱きしめられた。

白雪がまとう香の臭いが鼻をかすめる。

(あれ? どこかでこの臭いを嗅いだような気が……)

鼻を刺すような臭い。

一瞬脳裏に疑問が過ったが、吉乃は自分を抱きしめる白雪の身体が震えていることに気がついて、我に返った。


「吉乃ちゃんが無事で本当に良かった! 吉乃ちゃんになにかあったらどうしようって、私、ずっとずっと心配で」

「雪ちゃん……」


白雪は自分が吉乃から離れたせいで今回の事件が起きたのだと、自分自身を強く責めている。

吉乃は白雪の身体を離すと、涙で濡れた白雪の目を真っすぐに見つめ返した。


「雪ちゃんのせいじゃない。私がぼんやりしていたのが悪いの」

「吉乃ちゃん……」

「それに雪ちゃんが、私がいなくなったって琥珀さんに知らせてくれたんでしょう? 本当にありがとう」


これ以上、白雪が自分のことを責めないように。

白雪が責任を感じることのないようにと願いながら、吉乃は精いっぱい丁寧に言葉を紡いだ。