「彼らに身請けされれば、現世にいるよりも、心満たされる可能性があるということなのだろう。そして、紅天楼のお職を務めている鈴音も自ら志願してここにやってきた女のひとりだ」
「え……鈴音さんが?」
「ああ。以前、琥珀から聞いたことがある。鈴音がなぜ、自ら望んで帝都吉原に足を踏み入れたのか、明確な理由まではわからないがな」
初耳だ。まさか鈴音が自ら望んで遊女になったとは知らなかった。
「だが現に、そうしてここへやってきて、帝都吉原一の大見世のお職にまで上り詰めたのだから大したものだ」
「じゃ、じゃあ、やっぱり鈴音さんは咲耶さんと……」
「それはどうかな。鈴音ほどの女なら俺に拘らずとも、帝すら堕としにかかりそうな気もするが」
フッと口角を上げた咲耶は、形の良い目を僅かに細めた。
(帝すら……。確かに、鈴音さんなら有り得る話かもしれない)
と、そこまで考えた吉乃はあることを思い出した。
『花魁になるとね、帝都政府を統べる帝に、ひとつだけ願いを叶えてもらえるんだって。だからみんな、帝都吉原の頂点に君臨する花魁の座を狙ってるの』
「そ、そう言えば……」
「うん?」
「花魁になったら、帝にひとつだけ願いを叶えてもらえるというのは本当なのでしょうか?」
徐に口を開いた吉乃を見て、咲耶がそっと目を細める。
「す、すみません。そんな話を小耳に挟んだので……。もちろん、迷信なのかとも思いますが」
そこまで言うと吉乃は、お腹の前でギュッと手を握りしめた。
よくよく考えてみればおかしな話だ。
花魁になったらひとつ願いを叶えられるというのなら、既に鈴音には、願いを叶えられる権利があるということになる。