(私が、異能を隠し持っている──?)

異能とは、人に備わる怪異的な力のことをいう。現世には極まれに、人でありながら特別な力を持って生まれる者がいるのだ。

とはいえ、異能持ちの人など百万人にひとりいるかいないかという確率だ。

それがまさか自分に備わっているなど、吉乃は今まで想像したこともなかった。


「感じる、感じるぞぅ〜! ギャハハッ、こりゃあ面白いことになりそうだ!」


戸惑う吉乃をよそに、老人は興奮した様子で息を荒くしながら、腰を浮かせて立ち上がった。


「おお、そうじゃあ! オマエのその目! その目には、多くの者の運命を左右する、恐ろしい力が眠っておる!」

「ヒ……ッ!」


次の瞬間、吉乃の口から悲鳴が漏れた。

老人の額に貼られていた御札が、目の前で突然、縦真っ二つに破れたのだ。


「ハハハァ〜ッ。オマエは、ただの遊女にしておくのは勿体無い! ワシならオマエを有効活用できるだろう!」


直後、それまで老人だったものがみるみるうちに形を変え、恐ろしい大蜘蛛の姿になった。

身体は天井につくほど膨れ上がり、長い手脚はくの字に折れ曲がって(とげ)のような硬く黒い毛に覆われていく。