「それに、咲耶さんが私を護ると言ったのも、私が異能持ちの遊女で厳しい管理が必要だからという理由なんだと思ったら、なぜか悶々としてしまって……」
咲耶は神威の将官なのだから当然のことをしているまでだ。
それでもどうしても、吉乃はそのことを考えると暗い気持ちになった。
「だから私は――」
「……つまり、妬いたということか」
「へ?」
「俺が鈴音を頼ったのが、吉乃は気に食わなかった。ということはつまり、そういうことだろう?」
今度は吉乃がキョトンとする番だった。
しかしすぐに質問の意味を理解して、カッ!と頬を赤らめる。
「ど、どうしてそういう話になるんですか! 私はただ、鈴音さんがあまりに遊女としても女性としても格好良くて、なにもできなかった自分と比べてしまって悔しかったという話を――」
「へぇ、そうか。吉乃は妬いていたから俺に素っ気ない態度をとったのか」
「わ、私の話、聞いてますか!?」
真っ赤な顔で怒る吉乃に対して、咲耶はすっかり上機嫌になっている。
「ハハ、そうか。お前に妬かれるのは気分がいいな」
「だ、だから……っ」
「俺がお前を護ると言った件に関しても、吉乃は俺が神威の将官の責務として護るという意味で言ったのだと考えて、悶々としていた。だが、その話を聞いた俺はとても気分が良い」
咲耶は言葉の通り、本当に気分が良さそうだ。
反対に吉乃は、恥ずかしいやら悔しいやら、とても複雑な気持ちになった。
「俺は、俺ばかりが吉乃を花嫁にしたがっているのかと思っていたが……。吉乃も少しは、俺を男として意識してくれていたということだろう?」
咲耶の黒曜石のような美しい瞳は、真っすぐに吉乃だけを見つめている。
吉乃の髪を梳いた咲耶の手は、とても優しく温かかった。