「さて、お前も同じ地獄に堕ちるか?」


次に咲耶が声をかけたのは遊女だ。

ガタガタと震えていた遊女は慌てて咲耶に土下座をすると、涙を溢した。


「ど、どうかお許しくださいっ。私は、唆されただけなのです! 私にとって、ここより地獄に思える場所などありません! どうか、どうか、お願いです!」


女は畳に何度も額を擦りつけた。

その様子を見ていた吉乃の胸は、酷く痛んだ。

(さっきは、あんなに笑い転げていたのに……)

今は遊女の身体がとても小さく見える。いや、最初から小さかったのかもしれない。

よく見れば手脚はがしゃ髑髏ほどではないにせよ痩せこけていて、あちこちが骨ばっていた。


「地獄にいたいのなら、別に本当の地獄に堕とされても構わないだろう?」


しかし、咲耶は遊女の言葉には一切聞く耳を持たず、そう言うと人差し指を立て、またなにかを唱えはじめた。


「待ってください……!」


そんな咲耶を、吉乃は慌てて止めた。

咲耶は振り返ると、不思議そうに首を傾げる。


「どうした、これからこの女にも相応の制裁を加えるから少し待っていろ」

「も、もう十分です。この人のことまで、黒い沼に堕とさないでください……っ」


吉乃には、黒い沼がどこに繋がっているかなど、皆目見当もつかない。

しかし咲耶が地獄に堕ちるというなら、きっとあの沼は恐ろしい場所に繋がっているのは間違いないだろう。


「とにかく、もういいですから。早く、ここから出ましょう。お願いします!」


吉乃の懇願に、咲耶は一瞬だけ考え込む様子を見せたあと、立てていた人差し指を静かに下ろした。


「吉乃が嫌だと言うなら、今は止めておこう。──ただし、女。また吉乃に害をなすようなことがあれば、そのときは容赦しない。肝に銘じておけ」


背筋がゾッとするほど冷たい声で言い放った咲耶は、女を一瞥(いちべつ)したあと吉乃の前に跪いた。


「さぁ、行くぞ」


そうして咲耶は大蜘蛛のときと同じように吉乃を抱きかかえ、切見世長屋をあとにした。

外に出た咲耶は吉乃を連れて、例の鳥居の前まで運んだ。

そして鳥居をくぐると歩を進め、桜の木の下で足を止める。


「腕は痛むか?」


満開の桜の木の下に吉乃を下ろした咲耶は、着物が破れた腕の部分を見て痛ましげに眉根を寄せた。