「驚いただろう? ここは帝都吉原の外れにある、切見世女郎の長屋さ」

「切見世女郎の長屋……?」


この一カ月、帝都吉原について学んだ吉乃はもちろん知っていた。

切見世女郎の長屋とは、帝都吉原内の数ある遊郭の中でも、最下級の遊女屋のことだ。

そこにいる遊女たちは常に劣悪な環境で働かされており、〝地獄〟を絵に描いたような場所だと白雪は言っていた。

(それに、切見世で働かされている遊女たちも、問題を抱えている人たちばかりだって……)

吉乃は帝都吉原に連れてこられたときに、もしかしたら自分も切見世に配属されるかもしれないと思っていた。

けれど実際に切見世で働かされる遊女は、現世でなにかしらかの罪を犯して帝都吉原に売られてきた者か、もしくは帝都吉原内で問題を起こした遊女が罰として連れていかれる場所なのだと教えられた。

つまり、切見世は牢屋のようなところらしい。

加えて、一度切見世に堕ちたが最後、生きて年季明けを迎えることはできないということも教わった。


「あんた、噂には聞いていたけど、私と同じ人間にしちゃあ、珍しい目の色をしているねぇ」


そう言ってニヤリと笑った女の口の中には、歯が一本もなかった。

思わずゾッと背筋を凍らせた吉乃は、冷たい息を呑んだ。

いつの間にか、喉がカラカラに渇いている。

女がこのような見た目になってしまったのも、切見世に訪れる低俗な妖たちにされる魂の味見が原因だと、吉乃は知っていたのだ。