(やっぱり雪ちゃんは優しいな。私がまだ食べている途中だからって、気を遣ってくれたんだ)

でも、次からは迷惑をかけないように早く食べよう。

串に残った団子のひとつを頬張った吉乃は、急いで顎を動かした。

(そう言えば、結局、特になにも起こらなかったなぁ)

ふと宙を見上げた吉乃は、見世を出る前に琥珀に言われたことを思い出す。

『なにか少しでもおかしなことがあれば大声を出して助けを求めるか、なりふり構わず逃げてくださいね』

琥珀はとても心配していたが、クモ婆の言う通り、特に大きな問題は起こらなかった。

噂話についても、そもそも吉乃の顔を知るものが少ないためか、直接耳に入ってくることはなかった。

(念のためにと思って、一応持ってきたけど……これも特に、必要なかったかな)

そんなことを考えながら、吉乃はそっと、自分の胸元に手をあてる。

着物の下にひっそりと忍ばせてつけてきたのは、咲耶からもらったとんぼ玉だ。

吉乃は咲耶に言われた通り、このとんぼ玉を約一カ月、巾着に入れて首から下げて持ち歩いているが、特にこれといった特別なことは起こっていない。


「別に、毎日つけていなくてもいいのかな」


そっと目を閉じた吉乃は、咲耶の顔を瞼の裏に思い浮かべる。

最近ではとんぼ玉を見る度に、吉乃は咲耶のことを思い出してしまい苦しくなるのだ。