「雪ちゃん、本当にありがとう」


そう言うと吉乃は深々と頭を下げた。

そうしてゆっくりと顔を上げる。

けれど次に目が合った白雪は、一瞬だけ眉根を寄せて切なげな顔をしたあと、バツが悪そうに吉乃から顔を逸らした。


「雪ちゃん……?」

「ば、馬鹿だなぁ、吉乃ちゃん。友達なんて、それこそ別に普通のことだよ。当たり前のことに、お礼なんて言わなくていいのに。もう、この話はこれでおしまいね!」


声が少し震えているのは、気のせいだろうか。

けれど「おしまい」と言われてしまったら、生真面目な吉乃はそれ以上聞くことができなかった。


「ねぇ、あっちにすごくハイカラな雑貨店があるの! 行ってみようよ!」


挙句、白雪は、すぐにいつも通りの明るさを取り戻した。

(雪ちゃんの様子が変わった気がしたのは、私の思い違いだったのかも……)

「帝都で有名な藝術家(げいじゅつか)の神様が考案した小物とかを売ってるんだぁ」

「そ、そうなんだ。私も行ってみたい」

「うん! 行こう!」


吉乃は結局、白雪に問いかけた言葉を飲み込むと、再び白雪の隣に並んで歩き出した。





「はぁ。時間が経つのはあっという間だね。これ食べたら、もう見世に帰らなきゃ」

その後、花街にある店舗を一通り見て回った吉乃と白雪は、外出の締めに甘味処に立ち寄った。

吉乃はみたらし団子を。白雪は白玉ぜんざいを頼んで、今は店の裏に設置された席で堪能中だ。


「雪ちゃんがオススメしてくれたこのお団子、すっごく美味しいね」

「でしょでしょ? 私、昔からここのお団子が大好きなんだぁ。初めてこのお店に来たときは、鈴音姉さんと一緒だったの」


嬉しそうに話す白雪は、ぷるんとした白玉団子をぱくりと頬張った。


「雪ちゃんは、昔から鈴音さんに可愛がってもらっていたんだね」

「うん。鈴音姉さんは私の憧れだし、私は鈴音姉さんのおかげで今日までやってこられたから」

「そうなんだ……」


銀色に光る匙を器に置いた白雪は、また先ほど見せたようにどこか切なげな笑みを浮かべる。

なにかを考え込んでいる白雪の様子に、吉乃はまた僅かに胸騒ぎを覚えた。