「吉乃ちゃん? どうしたの?」


突然立ち止まった吉乃を不思議に思った白雪が、数歩先で足を止めて振り返る。

吉乃はドキドキと高鳴る鼓動の音を聞きながら下唇を噛みしめ、一度だけ小さく息を吸った。


「あ、ありがとう」

「え?」

「私のこと、友達って言ってくれて……。すごく、すごく嬉しい。ありがとう」


現世で吉乃は瞳の色が薄紅色で普通とは違っているという理由で、大人のみならず年齢の近い子たちからも敬遠されていた。


「あ、あの。前から聞きたかったんだけど、雪ちゃんは私の瞳の色を気味が悪いとは思わないの?」


思い切って吉乃は白雪に尋ねた。

吉乃は以前から白雪が自分に親切にしてくれることを不思議に思っていたのだ。


「異能まであるし、やっぱり普通じゃないし……」


けれど吉乃の問いに、白雪はキョトンとしてから、ふっと顔を綻ばせる。


「えー、全然思わないよ? だって帝都では、普通じゃないことが普通でしょう? 壁に耳があったり障子に目があったりするんだもの。私はここでの暮らしが長いから、普通じゃないことが当たり前になっているのかも」


白雪は悪戯っぽく笑う。

対する吉乃は喉の奥が熱くなり、思うように声が出なくなってしまった。


「それに私は、吉乃ちゃんの瞳の色、すごく綺麗だと思うもの。だから私も、吉乃ちゃんと友達になれて嬉しいよ」


屈託なく笑う白雪が、吉乃はやっぱりまぶしかった。

同時に、胸の奥が熱くなる。

現世で友人と笑い合っている子たちを見る度に、吉乃は羨ましいとも思っていた。

自分にもいつか、そんなふうに笑い合える相手ができたらいいと――もうずっと前から憧れていたのだ。