「ほ、本当にいいんですか?」

「おふたりの仰る通り、遊女でいる間ずっと見世の中にというわけにもいきませんし、吉乃さんの心の健康を考えたら仕方のないことです」

「わぁ! やったね、吉乃ちゃん!」

「う、うんっ」

「ただし、吉乃さんが見世の外に出るときは、必ずふたり以上で行動することが条件です。申し訳ありませんが、吉乃さんひとりで外に出ることは許可できません。その約束だけは必ず守ってくださいね」


そうして無事に外出許可を得た吉乃は、午後の稽古がはじまるまでの間、白雪とふたりで花街へと出掛けることになった。




「吉乃ちゃん、無事に外出許可が下りて良かったね!」

その日、帝都吉原は若干の曇り空だった。

それでも出店が並ぶ花街は賑やかで、あちこちの見世の遊女が一時の余暇(よか)を楽しみに出てきていた。


「しかも、琥珀さんがお小遣いもくれたし。買いたいものや食べたいものがあれば、迷わず買おうね! 今日だけは贅沢しよう!」


そう言って吉乃の隣を歩く白雪は、心だけでなく足元も弾んでいる。

初めて花街へと繰り出した吉乃よりも、白雪の方が余程浮かれていて、吉乃はなんだかそれがおかしかった。


「あの……雪ちゃん。琥珀さんに外出のお願いをしてくれて、どうもありがとう」


改めて吉乃から礼をされた白雪は、ニッコリと微笑み返した。


「なに言ってるの。私たち、友達でしょ?」

「友達……?」

「そうだよ、友達! 友達のために一肌脱ぐのは当たり前。私も吉乃ちゃんとお出かけできて嬉しいもの」


屈託なく笑った白雪は、今日は髪を高い位置でひとつに結っていた。

対する吉乃は白雪の言葉に驚いて、思わずその場で足を止めて目を見張る。

(私と雪ちゃんが、友達……?)

吉乃の腰近くまで伸びた艶のある黒髪が、サラリと風に揺れる。

吉乃はまさか、白雪が自分のことを友達だと思ってくれているとは想像もしていなかった。