「蛭沼の処遇が決まった。無期懲役、一生牢獄暮らしだ」
蛭沼との一件から早半月。吉乃が帝都吉原に来て一カ月が過ぎた。
その後の取り調べで予想通り、蛭沼からは余罪が掃いて捨てるほど出てきて、蛭沼は官僚の地位を剥奪された上で犯罪者に成り下がった。
「政府上層部からも、此度の一件への紅天楼の尽力を感謝するとの言付けを承ってきている」
事件の最終報告に紅天楼を訪れた咲耶の後ろで、神威の隊員ふたりが敬礼する。
「いえいえ、うちとしても不当な手口で手にした金銭を見世に落としていただいても、あまり気分のいいものではありませんから」
「とはいえ、お金はお金ですけど」と続けた琥珀は相変わらず拝金主義ではあるが、すっきりした様子で愛嬌良く笑った。
「しかし、太客の蛭沼殿がいなくなったのは見世にとっちゃあ大打撃さ。その辺の根回しは、しっかりしておくれよ」
「ああ。今回の件で鈴音花魁の働きぶりを評価し、花嫁のいない官僚候補たちに紅天楼へと通うよう上層部が進言したとのことだ」
クモ婆の言葉に咲耶が淡々と答える。
「将来の官僚ともなれば富のあるお方たちばかりなのでしょうねぇ」
また琥珀の瞳に〝銭〟の字が浮かんだ。
政府上層部としても、紅天楼に通わせることで蛭沼のような者が現れないように見張らせる意図もあるのだろう。
「それと吉乃にも――惚れ涙の提供、感謝するとの言葉を承ってきている」
そこまで言った咲耶は、琥珀とクモ婆の後ろに控えていた吉乃へと目を向けた。
対する吉乃はまつ毛を伏せたまま、お腹の前で結んだ手に力を込める。
「いえ、私は……。蛭沼様の一件に関しては、なにもお役に立てていませんから」
吉乃は咲耶が来てからずっと、頑なに咲耶の方を見ようとしない。
そんな吉乃に咲耶は私的な声をかけるべきか悩んだ末に堪えて、短い息を吐いた。