「吉乃?」

「助けてくださって、ありがとうございました。でも、私にはまだやらなければならないことがあるので、失礼いたします」


そうして吉乃は咲耶の手を借りることなく立ち上がると、乱れた着物の裾を直し、茫然自失としている忽那たちの前まで歩を進めた。


「吉乃ちゃん……」


忽那たちのそばにいた白雪が、不安げに吉乃を見る。

吉乃は白雪にも「ごめんね」と言って頭を下げると、再び忽那に向き直った。


「お見送りをさせてください」


吉乃は、ふたりに向かって深々と頭を下げる。

今の自分にできることは、これしかないと吉乃は痛いほどわかっていた。


「あ、ありがとう」


そうして吉乃は白雪と共に、忽那たちを見送るために座敷を出た。

最後まで、咲耶の方をただの一度も振り返ることもなく。

人知れず、悔しさで震える手をお腹の前で固く握りしめていた。