「それに、蛭沼様が鈴音さんを連れ去る計画を練っているという話も小耳に挟んだものですから」
それも、蛭沼捕縛を命じた者から得た情報なのだろう。
つまり鈴音を守りたい紅天楼と、蛭沼を捕縛したい帝都政府は利害関係が一致したというわけだ。
「仕掛けたのはこちら側とはいえ、俺の吉乃に手を出した罪は重い。本来であればここで地獄に送ってやりたいところだが――貴様には吐かせねばならない余罪が山ほどあるので、今は責務を全うしよう」
そうしてそこまで言った咲耶は、元の人の姿になった蛭沼の喉元に刀の先を突き付けた。
「牢獄で己の心と行いの醜さを、悔いることだ」
咲耶は、静かに呪文を唱えはじめる。
すると蛭沼の身体が黒い靄に包まれて、忽然とその場から消え去った。
「ひ、蛭沼様は……?」
「たった今、俺の神力で牢獄へと送った。部下であるお前たちからも後日、蛭沼のこれまでの行いについて聴取をすることになるだろう」
そう言った咲耶が刀を鞘に納めると、咲耶の髪は銀色と薄紅色に。瞳は元の黒色に戻った。
吉乃は、今度こそ気が抜けてへたり込む。
(結局、全部最初から計画されていたことだったんだ……)
咲耶が昼間紅天楼に来ていたのも、この計画の話をするためだったのだろう。
安堵と恐怖の狭間で冷や汗をかいた吉乃のそばに跪いた咲耶は、俯いている吉乃の顔を心配そうに覗き込んだ。
「吉乃……。結果的にお前まで欺くようなことになってすまない。必要以上のことを知らせれば、お前には余計な心配をかけるだけだと思ったんだ」
実際、最初から今回の計画を知らされていたら、吉乃は余計に緊張して計画の邪魔をしていたかもしれない。