「愛しいと思う相手ほど、信じるのに勇気がいります」
「で、では、どうすれば俺の気持ちを信じてくれるのだ!」
「それは……私にも、わかりません」
ひらり、ひらり。まるで指の間をすり抜ける花びらのように鈴音が答える。
鈴音の受け答えに蛭沼は納得がいかない様子で眉根を寄せた。
「う、ぬぬぬ……。そ、そうだ、わかった。これではどうだ!」
そして徐に吉乃を見た蛭沼は、思いもよらないことを言い出した。
「おい、そこの女。お前の異能は、どんなものの心をも魅了する、惚れ涙だと聞いた。その惚れ涙、今ここで俺が飲もう。それで涙を飲んでもなお、俺の鈴音に対する想いが変わらぬことを証明してやる!」
予想外の提案に、吉乃は驚いて目を見開いた。
蛭沼は惚れ涙を飲んでも、自分の鈴音への気持ちが変わらぬことを見せ、鈴音に己の愛の深さを伝えようと考えたのだ。
「そうすれば鈴音も、納得するはずだ! さぁ、女。今すぐここで涙を流せ。美味い酒と一緒に、飲み干してやろう!」
そう言うと蛭沼は前のめりになって吉乃を見る。
吉乃は驚きと戸惑いに揺れ、どうするべきかわからず狼狽えてしまった。
「そ、それは、私の一存で決めることは――」
「蛭沼様のお気持ちはよくわかりました。うちの鈴音も、蛭沼様にそこまで想っていただけて幸せでしょう」
と、そのとき、突然琥珀が吉乃の隣に膝をついた。
「ちょうどここに、先日彼女の目から溢れた涙の残りがございます。蛭沼様がご所望であれば、この涙をお使いください」
「琥珀さん……!?」
思いもよらないことを言い出した琥珀の手には、硝子の小瓶が持たれていた。
(この小瓶は――)
以前、吉乃が玉ねぎで涙を流した際、琥珀が滴を受け止めたものだ。
そのとき小瓶はふたつあって、ひとつは絹と木綿に飲ませ、もうひとつはそのまま琥珀が大切に保管していたというわけだ。