クラスに行くのは桜もいると思うし、なんだか気が引ける。
 そう思ったから、校門で待つことにした。

 しばらく待っていると葵さんが来た。
 誰かと一緒に帰るみたいだ。
 なるべくひとりがよかったけど、声をかける。

「はじめまして。桜の弟の涼です。葵さん。ちょっとふたりで話せませんか?」

 いきなりの声かけに目を丸くしていたけど、すぐ笑顔を浮かべてくれた。

「大丈夫だよ! 颯太(そうた)くん、ごめん。先に行ってて」

「わかった。じゃあまた塾で」

 颯太くんと呼ばれた人に軽く会釈をし、葵さんとふたりで歩く。



「……桜ちゃんが私のこと想って言ってくれたのはわかってたよ。
でも、忘れられたくない人だったから」

 葵さんは下を向きながらぽつぽつと話してくれた。

「そうだったんですね」

「あ、桜ちゃんだけが悪いわけじゃないよ。私が自分のことあんま話せてなかったから。
今日塾終わったら謝りに行くよ」

「え、別に明日でもいいと思いますよ」

 塾がいつ終わるかは知らないけど、明日でも桜は待ってくれるはずだ。
 そう思ったけど、葵さんは首を横に振った。

「明日じゃ後悔するときもあるかもだから」

 そう呟く横顔はどこか儚げに見えた。



「お姉ちゃんのために優しいね」

「いや、そんなことないです」

(りょう)くん。私は好きな人に伝えたいことを自分の声で伝えられた。だから、どの選択をしても後悔だけはしないでね。どうか最初から諦めないで頑張ってほしいかな、私は」

 なんでだろう。
 俺の気持ちも全部知っているような口振りをする。

「……ありがとうございます」

 葵さんに手を振って別れた。


 頑張ってもいいのかな。

 俺は桜が好き。だから、できることはしよう。
 例え、振り向いてくれなくても、想いに応えてくれなくてもいつかは告白を。

 そう決意した。