「ご馳走様でした。今日はもう部屋行くね」
夜ご飯を一足先に食べ終わった桜がお皿を片付けながら言う。
なんだか元気がないような……?
「今日はドラマは見ないの?」
いつも食後はドラマを見ているからお母さんが訊く。
「うん。課題多いからさ」
少し苦笑いをし、2階へと上がっていった。
「……珍しいわね」
お母さんがボソッと呟く。
俺は心配で、気づいたら桜の部屋の前に来ていた。
ノックをすると「どうぞ」という声が聞こえる。
入ってみると机に向かって何かを書いていた。
ほんとに課題が多いだけかもしれない。
でも、元気ないように見えたから訊いてしまう。
「桜さ、なんかあった?」
桜の手が一瞬止まる。
でも、再びペンを走らせる。
「なんもないよ」
相変わらず嘘が下手だ。
桜は嘘をつく時、罪悪感からか少し声が上擦る。
「なんでいつも気づいてくれるの?」
それは……ずっと見てきたから。
なんて、そんなこと言えるわけもなく、何か違う言葉を探していると桜が悲しそうに呟いた。
「……葵ちゃんと喧嘩しちゃった」
「え?」
葵ちゃんと呼ばれる女の子はたしか桜が3年生になってからできた友達だ。
よくふたりでどこか出かけたり、家にもたまに遊びに来たりしている。
「でも、私が悪いの。もういない人なんて忘れたらって言っちゃった。葵ちゃんの事情も知らないのに、最低だよね」
そう言いながら顔を伏せた。
こんなに落ち込んだ桜、初めて見た気がする。
なんとかしてあげたい。
そう思った俺は葵さんに会うことにした。