中学一年生のとき俺たちは初めて出会った。
 でも、意識的に会ったわけじゃない。偶然出会った。

 その日は、すごく雨が降っていた。
 俺は傘なんて持ってなかったし、コンビニで傘を買うお金すら持ってなくて、どうしようかずっと戸惑っていた。
 走って帰るべきか、小雨になるまで待つか。
 そんな中、傘を差し出してくれたのは桜だった。

「あの、これよかったら使ってください」

 控えめな声と共にピンクのかわいい傘を差し出してくれた。
 でも、初対面の人に傘を借りるわけにもいかないよな、とまた戸惑う。

「え、でも……」

 それに、この人の傘がなくなってしまう。
 すると、考えが読めたのか後押しをしてきた。

「あ、私は折り畳みあるので大丈夫です。どうぞ」

「……じゃあ、ありがとうございます」

 せっかく親切にしてくれたのに断るのもよくないと思い、ありがたく傘を受け取って家へ帰った。




【傘がないので持ってきてください】

 家でテレビを見ていると、父さんからメッセージがきた。

 親子そろって傘を持っていかなかったようだ。

 傘立てにはさっき貸してもらったピンクの傘。
 どこかでまた会えたら返さないと。
 そんなことを思いながら、俺は家を出た。


 駅に着くとその光景にひどく喫驚(きっきょう)した。
 まだあの子が駅にいて雨宿りをしていたから。
 折り畳み傘あるんじゃなかったのか?
 少し遠くから見ていると彼女がだれかに手を振った。

「あ、お母さん!」

「桜? どうしたの? 傘持たせたでしょ?」

「うん。どっかで忘れてきちゃって!」

「また? しょうがないな、一緒に帰ろ」

「うん!」

 会話が終わると、お母さんとふたりで仲良く傘を差しながら帰って行った。

 俺に気を遣わせないようにするために、折り畳み傘があるなんて嘘をついたんだ。
 なんて、優しい人だろうと思った。
 初めて会った人なのに。

 そのきっかけがあったからこそ桜のこと好きになったんだと思う。

 それからその人とすぐ家族になるなんてその頃の俺は 思いもしなかったな。