朝、いや、もう昼過ぎだ。
 休日だったからよかったけど、平日なら間違いなく遅刻していた。
 そう思いながら、リビングへ行く。

 珍しく誰もいなくてシーンとしていた。

「なんで?」

 その呟きも響いて消えただけ。
 そう思っていると、後ろから声がした。

「今日はあの日だからふたりともいないよ!」

「わっ! いたの?」

 突然ソファーから顔を出した桜に驚く。

 そっか。今日はお母さんと父さんの結婚記念日だ。
 いつも記念日にはふたりでどこかへ出かけている。
 詳しくは知らないが、いつも桜が提案してるらしい。



「ねぇ、お昼ご飯まだー?」

 はやくはやく、と急かしてくる。

「えっ、俺が?」

「他に誰が作るの? 私、料理できないの知ってるでしょ!」

「そうでしたね」

 たしかにいつも俺が料理をしていた。
 どうやら頭の中はまだ眠っているみたいで、冴えていない。

「ええなにその言い方!」

 軽くあしらうと、頬を膨らませて少し拗ねた顔をつくっていた。
 


 俺はキッチンへ行き、何を作ろうか考える。
 でも、その思考は桜の声によって遮られた。

「ねぇ、初めてあったときのこと覚えてる?」

 桜がイスに座ってこっちを窺う。

「……忘れるわけないじゃん」