「では、この前の小テスト返します!」

 担任の先生の一言で教室中の空気が変わった。

 このクラスで行われる小テストは30点以下だと、居残り掃除をさせられる。
 みんな、それだけは避けたくて必死に勉強する。


「涼、テストどーだった?」

 春樹はテストを返されると真っ先に俺のところに来る。
 にこにこしてるから、きっと点数は今回もよかったのだろう。
 春樹はいつもテスト前はたくさん努力してる。
 だから、いつも俺よりいい点数だ。

「……いつも通り」

 ほら、とテスト用紙を見せる。

「いつも平均ぐらいだよな。勉強しないでそれなら勉強してもっといい点数取ればいいのに!」

「俺は……これでいい」

 だって、頑張りたくないから。

 頑張ったら頑張った分だけ報われればいいのに。
 そんな世界だったら、俺は何もかも頑張るだろう。
 でも、この世界はそんな甘くない。

 努力しても報われないことだってある。

 そんなの辛いだけじゃん。
 だから、俺は頑張らない。
 勉強も運動も。それに恋だって。


「……俺は結果はどうであれ頑張ったことに意味があると思うから。だから、桜ちゃんのことも頑張る!」

 まっすぐな瞳でこちらを捉える。

 そんなこと言える春樹は時々ちょっと眩しい。
 そして、ちょっと羨ましい……のかもしれない。