「実はね、春くんと付き合うことになったんだ」

「……そっか」

 桜からの報告にも祝福の言葉なんて出てこなかった。

 言わないといけないのに。
 たった5文字なのに喉が支えて言葉が出てこない。


「驚かないんだね」

「あぁ、聞いてたから」

「……そっか」

 なんか微妙な空気が流れる。
 このまま気まずくなるのは嫌だから、俺はいつも通りの声のトーンで話す。


「この前デート行ったんじゃないの? おしゃれしてさ」

「あれはデートだけどゆずちゃんとだよ。女の子ともデートしてもいいでしょ?」

「……まぁ」 

 別にいけないわけじゃないけど紛らわしい。
 隣町ということでゆずちゃんって選択肢は思いもつかなかった。

 ゆずちゃんは桜の幼馴染だ。
 昔は隣町に住んでいた桜と家が隣同士だったらしい。
 俺も何度か会ったことがある。


「それでちょっと高いケーキ屋さんに入っただけ! お店がおしゃれなら私もおしゃれしないとと思って」

「そのために早起きしたのかよ! ほんと食べることしか頭にないんだな」

「あー! なに、その言い方! 私だってね、いつも食べ物のこと考えてませーん!」

「ははっ、どうだか」

 よかった。ちゃんと普通にできてる。
 顔を見て冗談も言える。
 ちゃんと姉弟している。

 いつか「おめでとう」って言える日がくるからもう少しだけ待ってて。