「私、先行くね?」
身支度を整えた桜が、また俺の部屋に入ってきた。
「わかった!」
そう返事をして桜に行ってらっしゃいと手を振る。
いつも俺の方が少し遅く家を出る。
通ってる高校は同じだけど、姉弟だからって一緒に行くわけではない。
時計を見てみるともう8時を指していた。
早く準備しなければ隣の家に住んでいる同級生であり、親友の月島春樹が迎えに来てしまう。
中学とあまり変わらない制服を身にまとい、最近おろしたばかりの新しいスニーカーを履く。
そして「行ってきます!」と声をかけて家を出た。
玄関を開けると、すぐそこに春樹の姿が見えてすかさず声をかける。
「おはよ。いつも思うけど早いな」
春樹が遅れたことは今まで一度もない。
雨の日も傘をさして玄関の先で待っている。
チャイムを鳴らしてくれれば家の中にいれるのに。
「約束の10分前から待つのが俺のモットーだから」
そう得意げに言う。
でも、俺はそれが理由だけじゃないのを知っている。
俺の10分前ぐらいに桜は家を出てるからちょうどあって声をかけれるのだろう。
「そんなこと言って、桜に会いたいだけだったりして?」
からかうような口調で言うと、春樹はすごい慌てぶりを見せる。
「ち、ちがうから!」
必死で否定されてもな。
こういうわかりやすいとこも春樹のいいとこなんだろうけど。
そのまま学校に向かって歩き出す。
でも、その横に春樹の姿はなくて「春樹?」と振り向いて声をかける。
すると「別に桜ちゃんに挨拶したいとかじゃないからな!」と言う。
「もうわかったよ。……わかった」
これ以上続くのがめんどくさくなって適当な返事をする。
でも、ほんとは春樹の口から桜の名前を聞きたくなかっただけなんだ。
春樹は桜のことが好きだ。
いつからかは詳しく知らないけど、気づいたら好きになってたらしい。
俺はちょっと、いやかなり複雑な気持ちだ。