「ねぇ、涼! 私の靴下知らない? ないんだけど!」
これも今になっては日常化した朝だった。
俺の朝はいきなりドアを思いっきり開けられる。
寝てようが、お構いなしに来て、何かなくなったけど知らないか? と問いかけることから始まる。
毎日なんでそんな物がなくなるのが不思議なくらいだ。
「そんなん知らないし」
「えー! どこー?」
俺がそっけなく返すとすぐ部屋から出て、慌ただしく下へ降りていった。
あのまま探し回れば間違いなくお母さんに怒られるだろうな。
そんなことを思ってると、俺の勘が当たり、お母さんの怒った声が家中に響いた。
「桜! 毎回毎回同じことして、整理整頓くらいちゃんとしなさい!」
「したんだよ、でも勝手になくなっちゃって!」
「物は勝手になくなりません。もう、少しは弟の涼くんを見習ったらどうなの?」
いや、姉が弟を見習うのは逆じゃん。
部屋の中でふたりの会話に耳を傾けながら思う。
俺と桜は姉弟である。
桜は今年から高3で、俺はふたつ年下の弟だ。
でも、ほんとは親同士の再婚で姉弟になったため血の繋がりはない赤の他人。
俺は弟になんかなりたくなかった。
なぜなら、俺は姉弟としてじゃなくてひとりの人として桜のことが好きだ。
俺にとって桜は初恋の人である。
この想いはまだ決して言えないけど、いつか伝えられるだろうか。
義理の姉弟は法律上結婚だってできる。
でも、それはあくまで不可能ではないということで可能というのは少し違う気がする。