「ええっ!? 川野さんが倒れた!?」

翌朝、原稿を確認してもらえたかと編集部に電話すると、川野に代わって電話を取ってくれた安藤が、川野が残業中に倒れたことを知らせてきた。

『はい。ですので、申し訳ありませんが、また私が代理で受け取らせて頂きました。中身の確認もさせて頂いております。小説自体は問題ありませんので、このまま校正に掛けます。結城先生には川野のことで、あまり気を揉まれないよう、お気をつけてください』

丁寧がお辞儀まで見て取れるような安藤の言葉に、昨日の女の白目をむいた様子が思い浮かぶ。……いや、あれは夢だ。川野は貧血か何かで倒れただけであって、命に別状はないらしいから、女とのつながりはない。

そう信じようとするのに、疑念の栄養で育った不安の芽は、正人の中で大きく枝葉を伸ばしており、正人の心にその真っ黒な影を落としていた。

(まさか……、まさか……!!)