「……なんで俺、ここにいるんだっけ」

 挙式が終わり、披露宴が始まると、夏輝(なつき)は楽しい雰囲気には似合わない、遠い目をして言った。

 今さらのような気もするけど、だからこそ思い出したかのように言われた。

「私の付き添い。忘れたの? ああ、それすらも覚えていられないようなバカだった?」

 本当にバカにするように言うと、夏輝は心外だという目を向けてきた。

 ここまで目で語ってくるほど不思議に思っていたとは思わなかった。

「そうじゃなくて。なんでわざわざ県外の、知らない人の結婚式に連れてこられたのかが知りたいんだよ」

 わかっていながらあんなことを言ったのは、少し意地が悪かったかもしれない。撤回はしないけど。

 どうして従弟である夏輝を連れて来たのか、か。

「使えると思ったから」

 もっといい言い方があったのはわかっていながら、夏輝が嫌な思いをするような言葉を選んだ。

 夏輝はさっき以上に顔を顰める。

「……横暴」

 予想通りしっかりと文句を言ってきた。

 でも、ここに来られたことに対しては、不満はないらしい。表情は変わらず不満そうだけど、豪華な料理に手を伸ばしている。

 普段食べられないようなご馳走が食べられたんだから、むしろ私に感謝してほしいけど、言わないでおこう。あの子の祝いの場で、空気が悪くなるようなことはしたくない。

 そういう意味では、夏輝にはもう少し笑顔でいてほしい。言ったところで、聞いてもらえるとは思えない状況を作ってしまったけど。

「で? 結婚式に連行してきて、使えると思ったってことは……男避け?」
「まあ……似たようなものかな。ちょっとだけ、恋人役が必要だったから」

 夏輝は今日一番の顰め面を見せてきた。そんなに嫌か。ここまであからさまに嫌がられると、腹が立つ。

「私だって、クズな従弟を恋人役にしたくないから」
「だったら、ほかの男を連れてくればよかっただろ」

 正論中の正論だ。誰がどう考えても、夏輝が言うことが正しいと思うだろう。

 だけど、それができないから、私は夏輝を選んだ。

「あの子が知らなくて、こんなこと頼める男じゃないといけないのはわかるでしょ? で、幼馴染ってなると、大抵共通の知り合いになる。つまり私だけが知っている人は少ないの。わかった?」

 一気に話すぎたのかわからないけど、夏輝は空を見て考えている。少ししたら、何度か頷いてくれたから、納得はしたらしい。

「じゃあ、なんで恋人役が必要なの?」
「……あの子が気を使うから」

 できるなら答えたくなかったけど、その役割を与えるからには、夏輝には知る権利があると思った。

 夏輝は妙に納得していないように見える。と思ったら、何か閃いたらしい。続いて、からかいの目を向けてくる。

咲月(さつき)姉、新郎のことが好きなんだ? それを察してほしくなくて恋人役が必要、みたいな?」

 まさか夏輝がここまで鋭いとは思わなかったから、普通に驚いた。そして、改めてあの子と関わり合いがないことがわかって、勝手に安心した。

「半分正解」

 褒めたつもりなのに、夏輝は不満そうに首を傾げる。

 どれが正解で、どれが間違っているのか、まるでわかっていないみたいだ。

「私が好きなのは、花嫁のほう」

 そのとき、ちょうどお色直しを終えた私の幼馴染で好きな人、詩乃(うたの)が出てきた。

 幸せそうに笑う詩乃を見つめながら、私は詩乃に対して恋愛感情を抱いていることに気付いた、高校時代のことを思い返した。