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もう二度と会わない。
15年前、高校二年生の私は、好きだった人を想いながらそう胸に誓った。
それなのに、若かりし日の勢いで誓っただけのその言葉は、結局その後一年とちょっとで破られることになった。
私は、海斗先輩と同じ県外の大学に進学した。「だって偏差値的に一緒だったし」と自分に言い訳しつつ、心のどこかでしっかり先輩を追いかけていた。
「やあ、久しぶり」
大学で先輩に再会した時、私は二年生で、先輩は三年生だった。偶然、同じ講義を受けていたのだ。それまでは、自然と会えたらいいなと思いつつ、なかなか会えない日々が続いていたからとても驚いた。自分から連絡する勇気もなく、高校とは比べ物にならないくらい人の多い大学構内で、ひたすら偶然が起きるのを待った。
「……お久しぶりです」
大学三年生になった先輩は、全然変わっていなかった。多くの大学生がジャージや流行りの洋服を着て授業を受けているのに、なぜか先輩は甚平を着ていた。その揺るぎのなさに、思わずふふっと笑ってしまった。
それから、先輩とはまた、以前のように気が向いた時に顔を合わせる関係になった。大学生にもなると喫茶店じゃなくて、Barや居酒屋で語らうようになった。趣味の話や最近受けた講義の話、おすすめのご飯屋さんの話。そのどれも、先輩の変わった嗜好を織り交ぜて聞くとなると、魔法のように面白くなった。
「実はね、最近気になる子がいるんだ」
先輩が初めて、色恋の話をしたのもその頃だった。
その人は一年生で、美術サークルで出会ったらしい。「じゃあ今同じサークルなんですか」と聞くと、「いや、新歓の時に来てくれただけで、入ってはいないよ。時々ご飯に誘ってるけれども」とのんびり返された。
さすが、チャラいストーカー男め。
心の中で毒づきながらも、先輩らしいなと微笑ましく思った。どうやら思いのほかその女の子にぞっこんらしい先輩の楽しそうな話を聞いていると、胸の奥で、古傷が疼いた。 先輩って、好きな女の子のことを、こんなふうに語るんだ。そんなに愛しそうな目をして、その女性のことを考えるんだ。
「初めて人を好きになったかもしれない」
日本酒を嗜む先輩が、赤ら顔で言った。本気だ。先輩の気持ち。久しぶりに誰かの本気の気持ちに触れた私は、なんだか心がざわついた。苦いお酒が飲めない私は、目の前にあるレモンチューハイを一口ごくんと飲み込む。
先輩はひどい。私という女がそばにありながら、他の女の子にうつつを抜かすなんて。
先輩の恋が、失敗しますように。
知らず知らずのうちにそんな不吉なことを願っていた自分が空恐ろしく、「ばか」と今度は自分に毒づくしかなかった。
もう二度と会わない。
15年前、高校二年生の私は、好きだった人を想いながらそう胸に誓った。
それなのに、若かりし日の勢いで誓っただけのその言葉は、結局その後一年とちょっとで破られることになった。
私は、海斗先輩と同じ県外の大学に進学した。「だって偏差値的に一緒だったし」と自分に言い訳しつつ、心のどこかでしっかり先輩を追いかけていた。
「やあ、久しぶり」
大学で先輩に再会した時、私は二年生で、先輩は三年生だった。偶然、同じ講義を受けていたのだ。それまでは、自然と会えたらいいなと思いつつ、なかなか会えない日々が続いていたからとても驚いた。自分から連絡する勇気もなく、高校とは比べ物にならないくらい人の多い大学構内で、ひたすら偶然が起きるのを待った。
「……お久しぶりです」
大学三年生になった先輩は、全然変わっていなかった。多くの大学生がジャージや流行りの洋服を着て授業を受けているのに、なぜか先輩は甚平を着ていた。その揺るぎのなさに、思わずふふっと笑ってしまった。
それから、先輩とはまた、以前のように気が向いた時に顔を合わせる関係になった。大学生にもなると喫茶店じゃなくて、Barや居酒屋で語らうようになった。趣味の話や最近受けた講義の話、おすすめのご飯屋さんの話。そのどれも、先輩の変わった嗜好を織り交ぜて聞くとなると、魔法のように面白くなった。
「実はね、最近気になる子がいるんだ」
先輩が初めて、色恋の話をしたのもその頃だった。
その人は一年生で、美術サークルで出会ったらしい。「じゃあ今同じサークルなんですか」と聞くと、「いや、新歓の時に来てくれただけで、入ってはいないよ。時々ご飯に誘ってるけれども」とのんびり返された。
さすが、チャラいストーカー男め。
心の中で毒づきながらも、先輩らしいなと微笑ましく思った。どうやら思いのほかその女の子にぞっこんらしい先輩の楽しそうな話を聞いていると、胸の奥で、古傷が疼いた。 先輩って、好きな女の子のことを、こんなふうに語るんだ。そんなに愛しそうな目をして、その女性のことを考えるんだ。
「初めて人を好きになったかもしれない」
日本酒を嗜む先輩が、赤ら顔で言った。本気だ。先輩の気持ち。久しぶりに誰かの本気の気持ちに触れた私は、なんだか心がざわついた。苦いお酒が飲めない私は、目の前にあるレモンチューハイを一口ごくんと飲み込む。
先輩はひどい。私という女がそばにありながら、他の女の子にうつつを抜かすなんて。
先輩の恋が、失敗しますように。
知らず知らずのうちにそんな不吉なことを願っていた自分が空恐ろしく、「ばか」と今度は自分に毒づくしかなかった。



