ヒヒッと下品な笑い方をする女衒に虫唾(むしず)が走る。


「ならば、私が五千出そう」
「は?」


目が飛び出んばかりに驚いている女衒は、すっとんきょうな声をあげた。


「旦那。五千ですぞ?」
「構わん」


津田さまは自分のうしろに控えていた、三十代後半に見える男に視線を送り、なにやら目配せしている。


「あとは彼が。郁子はもらっていく」


ぽかんと口を開ける女衒とお付きの者を置いて、彼は私の腕を引く。


「ちょっと、勝手なことをしないでください!」
「うるさい。黙ってついてこい」


一喝した彼は、人力車に私を乗せて自分も隣に乗り込み、車夫に行先を告げる。


「私は買ってもらわねば困るのです」
「だから、私が買った」


五千圓もの大金をすれ違っただけの私にあっさり使うこの人は、一体誰なの?


「どうしてでしょう」