「その通りです。父が細々と始めた三谷商店に関わっていた方から、どうせやるなら大きな会社を設立したほうがいいと助言されて、丸の内に立派なビルヂングを建てる計画が持ち上がり施工が始まったのですが、途中で資金が足りないと言いだされて……」


父が金策に走り、とんでもない額の借金を抱えることになった。

しかも、第一次世界大戦が終わり景気が後退し始めたため商売もうまくいかなくなり、私の身売りの話が出るまでに落ちぶれたのだ。


「その男、におうな」


敏正さんが口を挟むと、一橋さんも「でしょうね」と納得している。


「におうとは?」

「おそらく、その男が建設会社とつながっていて、失礼ながら世間をあまりご存じではない三谷家から金を巻き上げる算段だったのだろう」

「そんな……」


敏正さんの言葉に、目が点になる。


「建設費がべらぼうに高いのではないか?孝義さん」