「三谷茂子爵の奥さまは、津田紡績の副社長、一ノ瀬(いちのせ)さんの奥さまのご学友なんだ。一ノ瀬さんと父は幼き頃からの親友で、家も目と鼻の先にある。三谷子爵の奥さまが一ノ瀬邸に遊びに来られたときに俺も数回お会いしたことがあって、随分かわいがっていただいた」
母を知っているの?
思わぬつながりに目を瞠(みは)る。
「二年ほど前に亡くなられたと聞いたが……」
「はい。病で」
「残念だ。だから、郁子が妹や弟の親代わりをしていたんだね」
その通りなのでうなずいた。
女中がいるので身の回りの世話に困るようなことはなかったけれど、やはり母の存在は大きく、特にまだ小学生の弟は相当まいってしまった。
だから笑顔を絶やさず必死に踏ん張ってきたつもりだ。
「それなのに遊郭か……。お父上を悪く言って申し訳ないが、さすがにひどすぎる仕打ちだな」
母を知っているの?
思わぬつながりに目を瞠(みは)る。
「二年ほど前に亡くなられたと聞いたが……」
「はい。病で」
「残念だ。だから、郁子が妹や弟の親代わりをしていたんだね」
その通りなのでうなずいた。
女中がいるので身の回りの世話に困るようなことはなかったけれど、やはり母の存在は大きく、特にまだ小学生の弟は相当まいってしまった。
だから笑顔を絶やさず必死に踏ん張ってきたつもりだ。
「それなのに遊郭か……。お父上を悪く言って申し訳ないが、さすがにひどすぎる仕打ちだな」