その言葉を聞いた私は箸を置き、手をついて頭を下げた。


「先ほどは助けていただきありがとうございました。ですが、私にも三谷家にも五千圓という大金を返すあてがございません。吉原で働くしか……」


私が漏らすと、彼は、はぁーと大きな溜息をつく。


「吉原がどういう場所か、本当にわかっているのか?」

「男が女を買う場所ですよね。上級遊女ともなると、かなりのお金を稼ぐとか。今すぐお金を用立てなければ、三谷家は取りつぶしになります。妹や弟が……」

「そうか、兄弟がいるのか」


敏正さんは納得したように相槌(あいづち)を打った。


「郁子が兄弟の将来を考えて吉原に行こうとした心意気は認める。しかし、お前が考えるほど甘い場所ではない」


彼は私に一瞬目を合わせたあと、庭に視線を移してから話し始めた。