すると津田さまも立ち止まり、視線を庭に移す。


「ハナミズキは、秋には赤い実をつけ紅葉するから長く楽しめる。六年ほど前にワシントンから桜のお返しとして贈られた樹木だ。そのときの一本がこれになる」
「え……」


そんな貴重な木だったの?
さすがは津田紡績。


「津田さまは博学でいらっしゃるんですね」
「敏正でいい。堅苦しいのは好かん」


彼はそう言い捨てて、再び足を進める。
途中で春江さんが戻ってきて私から箱膳を取り上げ、せわしなく奥座敷へ運んだ。

案内された奥座敷は十二畳の広さで、上等な床の間もある。


「素敵な家」


ふんわりと漂う井草の香りが心地よくてつぶやくと、敏正さまは箱膳の前に腰を下ろした。


「だが、古いだろう?まあ、そこを気に入っているのだが」
「私も好きです」


最近は西洋建築が流行していて、華族は競うようにして建てている。