「この家は、先代の社長――つまり敏正さまの祖父にあたられる方が幼少の頃にお過ごしになった邸宅で、会社が大きくなり、何倍もある立派な洋館をお建てになってからは空き家だったんです。そこを敏正さまが気に入られて、お住まいになられるように」


何倍もある洋館……。
ここも十分すぎるほど立派なのに。


「それでは津田さまは津田紡績で働いていらっしゃるんですか?」


椀を膳に置いたあと尋ねる。


「はい。二年前に帝国大学をご卒業になり、今は一橋さまのもと、会社について学ばれていらっしゃいます」
「えっ?もっと年上でいらっしゃるかと」


ということは、まだ二十三歳くらいなの?

落ち着いて見えたので、これまた驚愕だった。