知らない名が出たので、味噌汁をよそいながら尋ねる。


「津田紡績で、秘書をなさっている一橋さまです。社長の奥さまの弟君でして」
「津田紡績!?」


もしかして津田さまは、あの津田紡績の社長のご子息?

驚きすぎて手が止まった。

津田紡績といえば、明治時代に飛ぶ鳥を落とす勢いで売り上げを伸ばし、政府も一目置いているというとんでもなく大きな紡績会社だ。

第一次世界大戦時には、戦場となり東アジアや東南アジアへの輸出が止まった欧州に代わって、さらに業績を伸ばしたことで知られている。


「ご存じありませんでしたか?」


私がコクコクとうなずくと、春江さんのほうが驚いた様子だ。